虚像天国


幼い頃に聞いていた子守唄が
思い出せない。

奪われた眠りを追いかけるように
小さな記憶を探している。
汚れや痛みを
知るはずもない日々の面影は
世の中の何よりも 儚い。

不毛で虚しい時を刻んだままの
止まったような真夜中で
歪んでしまった記憶の傷跡に
空っぽの心を揺らしていた。

幼い頃に聞いていた子守唄が
思い出せない。

外は小雨に濡れて
月が見えることはなく
ただ湿った匂いが
微風に乗って舞い込んでくる。

月がないだけで
夜はあまりにも不完全に見える。
余裕のない心は
飽きたらない悲しみを掴んだまま
行き場のない想いに 死を願う。

幼い頃に聞いていた子守唄が
思い出せない。

僕は眠れない夜の
星ひとつ無い空に 光りを描いて
天国の灯りを浮かべている。

過ぎた日の幸せな風景を想い
悦びに満ちた思い出だけを考えて
天国の灯りを浮かべている。

小雨の濡れる眠れない真夜中から
逃れるように 虚像の天国を浮かべていた。

僕はいつからか
幼い頃に聞いていた子守唄を
思い出せない。






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