潔白
お願いです
お願いですから
もうそれ以上
人間を美化しないでください
人間であることは
死に値するほど
恥ずべきことなのです
絶望なのです
愛だと、夢だと、偽りを説く偽善者のすべてを
子供たちから遠ざけてください
僕たちはこんなにも
醜く、最低の生物であることを
すべての子供たちに教えてあげてください
お願いです
お願いなんです
人間であることを恥じてください
私は悔い改め、確実なやり方で
誰の目も盗み
あらゆるものを出し抜いて
最後の潔白を証明することでしょう
人間であったことの屈辱を
けしてなれなかった
美しさに打ちひしがれて
最後の潔白を証明することでしょう
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次の次の次
次の朝は嘘に包まれ
次の空は糾弾に明けて
次の夜は静かに灯る
次の明日はまた晴れて
次の罪を懺悔して
次の言葉を探している
次の金曜日は楽しみで
次の季節には誰もいない
次の痛みはいつしか慣れて
次の詩は誰もをあざむく
次のあなたは澄ました顔で
次の朝を伝えにくる
次の僕はきっと美しいから
次の命でまた会いましょう
おもい
悔いたり、恨んだり
私の心には、それは沢山の人たちが居まして
愛したり、心配したり
真夜中になると、それは沢山の人たちを想います
感謝してもしきれず
懺悔してもし足りず
どうにも孤独なもので
どの感情が正解なのか分かりませんが
けれどやはり沢山の人たちを想うのです
やがて私が最後の権利を行使する時
その抜け殻に残ったものは何でしょう?
私は死ぬことを恐れています
感情は苦しくて
怒ることも、愛することも、辛くて
無に還ることが憧れであるにもかかわらず
それでも感情を失うことが怖い
人を想えないことが怖い
そうなってしまうことが
本当に、怖い
死にました
必ずしも美しい心が
報われるわけではないこの世界において
それでも美しくあろうとすることは
世間から著しく逸脱した無謀な挑戦であり
また危険な賭けでもありました
心の媒体としての言葉を
僕たちがまだ美しかった証拠の一つ
打ちのめされても守り抜いた
尊い軌跡とでもいいましょうか
今にして思えば何とも清らかで
初々しい初恋のようでさえあった
青春人生のはじまりを
愛して、愛して、やまなかった
「この世界!」
やっと辿り着いてわかりました
あれらは淡い幻想でした
揺らめいています
世界は死にました
揺らめいています
渇ききったその目の中に
銀河系オーガズム
いつか黒い回廊をいった
頼りない旅路のことを
乾いた岩盤に抉る火星人が思い出す時
膨張する宇宙の残丘で
丸められたティッシュの中に萎れる
星の光りを僕は見ている
ある日、見知らぬ天窓の隙間に
無修正の広がりがあることを
あなたが見つけたのと同じく
雲ひとつ取り払って露出するこの惑星が
知らない星の水面で漂う姿を
覆われた暗潮に潜ませた月の裏側に辿ったのは
僕の静かな陰部の鼓動が地下のマントルに
共鳴にも似た罪悪感を覚えた日のこと
アルタイルから突起した視線の先で
ベガの吐息が響き渡り
睨みをきかせた動物曲芸の調教師のような
鋭い滴りが銀河を蚕食する時
呼応するデネブの先端にきらめいた光沢が
寸秒にも満たない絶頂へ
駆けめぐる1800光年の回路を
道化じみた放物線に描いて
名もない正座を孤独な天文学者が発見する
それはこの掌の臭いが記憶する
白い鯨の尾に打たれた清らかな痛みが
ゆくりえない快感によって放たれたのと同じように
僕はいつしか黒い回廊をいきながら
全裸で見上げた星のことを思い出す
地球の誕生からだいぶ経つが
まだ僕(僕ら)は宇宙人にはなれない
この惑星は放置されたまま
羞恥心だけを覗かせている
指先の中を消えていった
アステリズムの寂寥が青暗色の包皮に覆われ
朝にすっぽりと包み込まれていく時
もうここが宇宙の内側にあったことなど
誰も覚えてはいない
僕はジャージを擦らせ奔走する
新聞配達の足音に耳を澄ませ
鳴りだした電車の警笛に耳を澄ませ
勘違いな女子アナウンサーが喋る
テレビのニュース番組に耳を澄ませ
今日もこの惑星は
物足らない陰萎に悩まされている、と
宇宙人のように言ってみせる
そして、いつか黒い回廊をいった
頼りない旅路のことを
乾いた岩盤に抉る火星人が思い出す時
僕は丸められたティッシュの束を
ごみ箱へと放り投げた
家計簿
それは買い物のあと
すぐに捨ててしまうレシートと同じで
何の興味もありませんでしたが
しかしそれは
命の家計簿を付ける上において
大事な証拠であったのかもしれません