追憶
灯りのない真夜中を横切るのは
いつかの遠い残像。
傷ついた夜空に眠る沈黙の日々が
愛の色に染まる時
痛みや矛盾に満ちた夜も
間違いではなかった、と思えるのだろうか。
振り返る情景に
心を滲ませるいくつかの断片が
切なく、暗がりへと浮かび上がる。
人が知ることの出来る悦びや幸せが
世界の全てを埋め尽くす時が在るとすれば
それは、この世に生まれ落ちた
一瞬の時だけだったのだろう。
淡い陽炎のような遠い日々を
病んだ瞳は 静かに傍観している。
季節の風もなければ
誰の足音もしない
もうすぐ終える真夜中の時間で
月は安らかに何を問うのか。
追憶は柔らかな苦悩を
心に残している。
傷ついた夜空の向こう側で
冷静な光りが目を覚ます。
僕はそれが愛の色だとは知らない。
けれど、悲しみでもない色で
世界を染めている。
死を想い続ける日々
死を想い続ける日々。
見飽きたポルノ雑誌を手に取り
退屈な自慰行為を済ませる。
不愉快な整理現象。
死を想い続ける日々。
救われない心から逃れるように
カッターを押し当てて、血の色を確かめる。
熱い血の通った左腕。
死を想い続ける日々。
心臓は動いている。
体は細胞分裂を繰り返し
生命体としての形を造っている。
死を想い続ける日々。
生きている。
生きるために、必死に生きている。
体中のあらゆる臓器は止まることなく
今、この時も僕を生かし続けている。
死を想い続ける日々。
涙が溢れてくる。
とめどなく溢れてくる。
これは、命の答え。
これが、命の答え。
死を想い続ける日々。
死を想い続ける日々・・。
温もりの家
思い起こせば 温もりの家。
濁ることはない血の繋がりの果てで
見つけた愛は 眩しい灯り。
人生の犠牲の中で
荒んで、汚れた心を
痛いほどの美しさで 照らしている。
浅く始まる夜の時間が
感傷に染まる時
思い起こせば いつかの悦び。
自由のない空の下でも
夢のない星の下でも
胸を揺さぶる優しさが
心の形をなんとか留めている。
頼りない言葉で語る愛など
美しいとは呼べないけれど
いつかは、そんな悲しみも
還るべき温もりに染まればいい、と
遠い空の忘却を想う。
昼と夜を結んだ雲が
地平線を染めて、沈んでいく。
思い起こせば いつかの悦び。
思い起こせば 温もりの家。
濁ることはない血の繋がりの果てで
見つけた愛は 眩しい灯り。
夜の続き
朝明けの空に はみ出した夜の続き。
まぶたの裏に潜んだ病が
綺麗な空の風景さえも
染めてしまう前に
愛を表現出来たらよかったのに、と
憂鬱な夜の余韻の中で
苦い溜息を転がしていた。
明けてゆく一つの過去が
置き忘れていった悲しみの残骸は
まだ見ぬ空を染めていく。
夢や理想を 問いかけた星の光りは
心を美しく照らしてくれるはずもなく
虚しく静まり返る時間の流れで
歪んでしまった魂を見つめ
隠せない痛みを 声を殺して叫ぶ。
生きる事に悲しみ以外の感情を
見つけることなど、出来たのだろうか。
人と人とは繋がり合うことなど
出来ないけれど
それでも、愛を語る意味など
在ったのだろうか。
心の正しい形は分からない。
人の在るべき姿など、知ることは出来ない。
それは、人間になれなかった野獣の嘆き。
指先に触れた朝明けの空に
消えた月の灯りが映っている。
僕はまだ、はみ出した夜の続きを見ている。
迷夢
不確かな言葉ばかりが
この部屋には並んでいます。
世界に言葉が無く
ただの空白だったら
生まれない悲しみも在っただろうか。
言葉と感情が
繋がっているのなら
語れない愛をお許しください。
静寂に沈む真夜中の世界で
星の輝きは 真実を失ったように
儚い揺らめきで 夜空に溺れている。
不純物に満ちた心が
この夜という空間で証明できるものは
おそらく痛みしかないのでしょう。
不確かな言葉ばかりが
この部屋には並んでいます。
言葉は言葉を運び
風景のあらゆる物体も、情報も
痛みも、感情も、言語化された世界。
そんな世界で掴まえられるのは
完全な悲しみだけのようです。
だから今宵も
悲しみを語っているのです。
嗚呼・・僕は
「悲しみを語りすぎた。」
雨の奏でる午後
雨の奏でる午後
しばらく降り続いておくれ
一粒一粒の悲しみが
物足りない心を埋めてしまうまで
雨の奏でる午後
感傷に誘われるままに
いくつかの遠い記憶が
ぼやけた風景に浮かんでいる
雨の奏でる午後
永遠を知らない季節の中で
罪深い日々の傷跡も
いつかは眠りにつく時が来るだろう
雨の奏でる午後
戻らない日の幸せを想う
愛のひと欠片が
乾いた手の平から落ちないように
雨の奏でる午後
嘘も汚れも悦びも
平等に染めていく
雨
雨の奏でる午後
いつまでも降り続いておくれ
心の全てが
その調べに染まるまで