瞳
やがてあのわずかな永遠でさえも
囚われた時の中に埋もれて
幾重かの季節において
何者でもなかった僕たちが
魂を開拓する日
その補正すべきあらゆるものの中で
補う必要のないひとつの
確かなものを見るだろう
まだ汚れていないかのような
新しい瞳が
いつか長い歳月をかけて
えぐられた時のことを
あれはまだ
今日の窓に広がった未知なる雲を追いかける
鳥のようでさえあった
小さな青空の季節を
静かに点るその代えがたい灯
あなたのえぐられた瞳から
改めて流れる涙は
美しかった
暮れと影
枯渇の空とそれに与えられた太陽が
敗者を嘲るように眩く暮れて
けれど誰も知ることはないのです
明るみを恐れて
遮られた木陰に潜んだ
悲劇のそれらを
どんな犠牲を持ってしても
それを秘め続けることの意味を
呼吸さえ不器用に
僕は無でした
どの季節にも
またはその片隅で
常に補うことの叶わない
心という弱者
まさに僕こそが影なのです
閉ざされたギリギリの世界の淵際で
自分の名を名乗ることもできず
偽りの名で詠う
僕こそが影なのです
空へ羽ばたく鳥を見上げ
落日に染まる町の影で
生きることを拒みながら
虚像のうしろで哀れに這いつくばっている
僕は影なのです
空白
いつかあなたが
僕たちの敗北を知ることのできる
最後の朝を思い出す時
理想を顧みる大きなクジラの尾に打たれ
えぐられた世界の空白に
ひとつの確かな後悔を
僕は紡いでいる
まだ見ぬ大地から吹き荒れる風に撫でられ
一時に湧いた清らかな情熱によってのみ
生じるそれは
白いあなたの指先が
まだ綺麗な夕焼けを映していた頃の
満ちることのない心と
ほんのわずかな冒険の匂いに誘惑された
いじらしい罪に他ならない
(けして救われることのなかった夜を
僕たちの証明とするために)
いつかあの季節の同じ悲しみが
忘却の炎に焼かれ
灰となってしまっても
えぐられた世界の空白と
それに与えられた愛とを持って
やがてそれは
いつまでも僕の視界の片隅の中を
揺らいでいることでしょう
疾走
夕映えを疾走する
見知らぬ場所を捉える暇さえなく
影を帯びる列車の中
風景に押し込まれては
閉じられた瞳の向こう
真っ暗な回廊の中を歩く僕は
音だけを拾っていく
河原で丸く綺麗な石を探すように
音だけを拾っていく
空調の音や風圧がドアを叩く音
入れ替わる誰かの話し声、
車輪が線路を擦る音、
ヘッドホンから漏れる知らない歌
知らない街の知らない音
知らない人の知らない声
すべてが無縁で
けして綺麗な音はないけれど
この夕映えの音楽は
どこか和やかな旋律を奏でている
やがて列車は帰るべき場所に降り立つ
愛したもの
僕が愛した風景を
君に伝えようと思ったが
僕が愛した過去たちは
記憶さえも届かない
遠い宇宙の星
僕が愛した生物を
君に伝えようと思ったが
僕が愛した生物は
夜を纏い眠りの最中
僕が愛した言葉たちを
君に伝えようと思ったが
僕が愛した言葉たちは
遥か地平線の向こう側
僕が愛したものを
君に伝えようと思ったが
僕が愛したものたちは
輪郭も色もなく
冬の空に消えてった
深海
今日も詩を書かない
(あるいは優しくない世界を眺めて)
忘れ去られた窓辺に揺れる
不在な部屋に点された明かりは
星屑の優しい誘惑に
淫らなネオンに
こぼれ落ちた夜の深海の中を
潜む魚
木霊のように響くことのない
夜の声を教えてほしい
きっと明日には
風に連れ去れてしまうものを
僕は抱いて眠るから
本当は伝えたい言葉が沢山あります
伝わらない想いが沢山あります
けれどそれを伝える意味も
それを伝えるべき相手も
もう、ないのです
死に至るその日まで
言葉は続きます
枯れ果て、地面に平伏す落ち葉の下で
それはひっそりと
あるいは引力に縛られた月の裏側で
それはうつむいたまま
やがて与えられた昨日の夢の中で
あなたが時に迷い込んだなら
見ることもあるかもしれません
こぼれ落ちた夜の深海の中を
頼りない一つの気泡が
哀れに漂っていくのを
僕は今日も詩を書かない
(言葉を抱きしめて)
僕は今日も詩を書かない
(あるいは優しくない世界を眺めて)