黄昏の映写機
汚れも辞さない繊細な面影が
黄昏の映写機に映される。
思い出と呼ばれるそれらは
夕景の一瞬を飾りつけて、消えていった。
窓越しに浮かび上がる朽ちた心の投影など
飲み込んでしまいそうな空の彼方。
戻れない場所で、陽炎のように揺らめく色彩は
目障りなほどに、美しい。
訪れた夜の催促に
残りわずかの秒針を刻む。
醜いと顔をしかめる小鳥達は
知らない空へ流れてゆく夕焼けの中
暮れ残る想いは、季節を越えて
どんな日々の下にたどり着けるだろうか。
どうやら今日も、時間切れのようだ。
汚れも辞さない繊細な面影が
黄昏の映写機に映される。
惜しむほどに溢れ出る描写は
ただ追憶の中で、その追憶の中で
思い出と呼ばれるそれらは
夕景の一瞬を飾りつけて、消えていった。
思い出と呼ばれるそれらは
夕景の一瞬を飾りつけて、消えていった。
月光
唐突にある世界が誕生した時から
それは絶対無比の支配者だった。
スターリンのごとき独裁者だった。
歩き疲れ、立ち尽くすだけの夜に
鮮やかな閃光で一筋に列なる光は
処刑台へ続く13階段のように
冷淡に、寂しく、漆黒の真夜中の頂点で
奏で続けている。
僕は、初めて女性器を見た時のような
なんとも怪しく、その美しい魅惑に
吸い込まれそうになるのを抑えている。
太陽に背いた臆病者を嘲笑うか?
夢ではない、ここには眠りなど
最初から存在していなかった。
死そのものが具現化されたそれは
無防備な心に取り憑いて、離そうとはしない。
頭の中では
ベートーヴェンのピアノソナタ第14番「月光」が
永遠と響き続けていた。
喝采の夜
何億、何兆という光が紡ぐ世界の広がり
極彩色の宝石箱に住む夢の住人達。
死に方を知らない子供達と
生き方を知らない大人達。
喝采の夜に弾ける憂鬱は
おそらく、生命の内側で揺らめいてた背負うべき虚しさ。
痩けた悲しみすらも、手放すことの出来ない
胸の彼方に広がる宇宙の混色で
露骨に浮かび上がる魂らしき個体は
迷える夕刻に引かれた 境界線の上に立っている。
子供は美しい。
綺麗な嘘をつき、綺麗な醜さを持っている。
大人は汚い。
汚い嘘をつき、汚い醜さを持っている。
黄昏に沈んだあれは
単なる時間軸の悪戯でも無かったんだろう。
あなたは大人ですか?子供ですか?
僕は大人です。
懺悔独唱
1
それは、枯れ果てた落ち葉の葉脈の中
冬眠よりも、さらに深い眠りの底
揺れる花の根よりも、土深く
溶けるように沈んだ夕日の彼方。
限りなく嘘に近い季節の中
人らしき物体として漂い続けた日々を
心の裏側で傍観していた。
存在の証明すらも許されない脆さで
鳥にもなれず、風にもなれず
その流れの行方も知らないまま。
心を埋葬する旅路の最中
偽りを重ねるたび、嘘は真実に近づき
やがては真実すらも、嘘になる。
真夜中の月にだけ晒す事の出来る、心という極限。
長い間、封印された渇きの一つは
月の灯りに反応し、氾濫し、溢れ出てくる。
本当は、死んでなどいなかった。
僕は生きていました。
頑なに閉ざされた魂の根底で
誰にも悟られることのない「感情」というものを抱いて。
2
秘密を厳守するかのような夜の沈黙は
冷静に満ちている。
呪文のように唱えた言葉。
反転した鏡の住人は語っている。
「心を他者に見せる行為など、死に値する。」
時のせせらぎに捉えたわずかな矛盾の中で
真実が嘘に変わる瞬間。
何に怯え、何を守っていたというのか。
今、伝えきれなかった想いが
天に救いを求めるように、積み上がっている。
永遠に白日の下に晒される事のない、その想いを
僕は醜く握りしめている。
まどろみの風に包まれた最果ての地で
忘却に埋もれないよう、心の最後で抗っている。
廃れたものばかりを抱いて
恥も外聞も捨て
未だに綺麗な人間で在りたいと願っている。
懺悔の言葉も、祝福の言葉も、愛の言葉も
汚れるほどに、表現が失われたそれら。
3
月だけが知る臆病者の嘆き。
睨み付けるだけ排斥された色彩の数々は
ただ、ただ、大きな津波となって
防波堤を打ち砕き、溢れていく。
溺れ、もがき苦しむ錯覚のような日々の中で
拒んでいた生きるという行為。
失われつつある時を必死に追いかけている。
呼吸すらも不器用だった遠い昨日の向こう
突風よりも、高速に駆けていくそれを。
過ぎ去る大切だったもの達の影が見える。
それは、人間になりきれなかった季節の事。
腐敗しきったはずの心が、愛を叫んでいる。
4
朝の光に触れることのないこの場所で
遙かなる恒星に刻まれ続けてきた涙は
いくつもの目まぐるしい波紋となって
永遠と響き続けている。
それが醜い懺悔である事を、僕は知っている。
こんな夜でしか、他者を想えない醜い言葉。
大声で叫びたくなるような、それは
ただ、生きていたという証明。
人はなんて美しいのだろう。
自分はどれだけ美しいものに、囲まれていたのだろう。
僕も生きていました。
信じられないかもしれませんが
醜さをまといながらも
心は愛を感じ、悲しみを感じ、生きていました。
頑なに閉ざされた魂の根底
確かにそこに、感情が在ったのです。
感謝しています。愛しています。
なので、どうか僕の事を憎んでください。
移ろう雲
やがて消えてしまうだろう雲の
浅はかな揺らめきは
人の心のように移ろいでいる。
痛みばかりを重ねてしまう季節の色は
退屈な世界の表情とは解離し
陰湿な内側で静かにうごめいている。
ひとしきりの夜を追いかけ、疲れた月が
空の青い深みに同化している。
秋の乾いた空を泳ぐ全ての叙情が
鉄とコンクリートの街を焦がす。
涙の答えも知らぬまま、虚空を掴む溜め息は
まるで、あの移ろい行く雲のように
傷つく季節の一描写。
汚れを嫌い
愛の言葉を探すくらいなら
切ないだけの想いに沈もう。
不愉快な表情を
隠せなくてもいいよ、今日は。
美しいはずの季節を
憎んでしまう僕は
罪を歩むように
移ろう雲を追いかけた。
愛すべき世界
廃れた思考の中で
唐突に見え隠れする風景。
病に染まる日々の傍らで
切なく横切るそれは
愛すべき過去の面影。
約束されたように褪せたものが
無情に心を刺激する。
光照らす太陽も
鮮やかに時を揺らす花達も
人の微笑みも
季節を漂う藍青色の空すらも
美しい風景はすべて
遠い日々の中で、揺らめくだけになった。
乾いてしまった世界の中で
不毛でない場所を
見つけることの出来ない盲目な心。
歪んでしまった感覚に
頼りなく降り積もる言葉を拾い集め
こんな人間になってしまった、と
仰いだ空に漂わせる溜息。
この愛すべき世界の中で
この愛すべき世界の中で
この愛すべき世界の中で
美しさを持って
生きていたかった。